露木幸彦の新刊「婚活貧乏」
(中央公論ラクレ新書・6月10日発売)の概要その3


「種馬」扱いされた男性の悲劇

きっかけは一本の電話でした。
「僕は種馬も同然ってことですか?」



電話口で大声でまくし立てる男性。
私は彼が早口すぎて、言葉をちゃんと聞き取れなかったため、もう1度、聞き直しました。
「もう少しゆっくり話してもらえますか?」



彼はさらに大きな声で私にむかってきます。
「月10万円の返済に、さらに4,000万円の負債を抱え、家族を失い、わが子の顔も見られない。
もう、この先の人生真っ暗です。」
電話の向こうでは怒り心頭で、赤い顔をしている男性の姿が、簡単に想像できました。



私は彼の言っていることが、いまいち理解できませんでした。
種馬と多額の借金、家族、親子離散というキーワードが頭のなかで、うまくリンクしなかったからです。
私はもう1度、彼に尋ねました。「今までの経緯を、順をおって教えてもらえますか?」



彼は少し平静を取り戻し、たんたんと話し始めました。
「彼女とは今から3年前、結婚相談所で知り合いました。僕が高所得なので、すぐ相手が見つかりました。
5ヵ月の交際を経て、妻の妊娠がわかり、それをきっかけに入籍しました。
いわゆる、できちゃった結婚です。」



ここまでの事情は、どこにでもある「ありふれた話」です。
強いて言えば、結婚と妊娠の順番が逆になっていることです。
「ありふれた話」がどうして「声を大にして伝えたい話」なのでしょうか?



「彼女がおかしくなったのは、妊娠してからです。
異常ともいえる発言や態度が繰り返され、どんどんエスカレートしていきました。
僕は何も悪いことをしていないのに、です。



例えば、早く帰れば『何で早く帰ってくるの』、帰りが遅くなれば、
『こんな時間まで何やってるの?』と言われ些細なことで喧嘩に。
そのたびに『死ね、ボケ、最低』など言われ、嫌な思いをしてきました。
いったい何の恨みがあるのでしょうか?」



彼女のために借金4,000万円



「幸せな結婚生活」を夢見ていた彼にとって、彼女の突然の豹変は全くの予想外でした。
彼女がどうしておかしくなったのか、彼は自分には落ち度や非がないと考えていたため、
釈然としませんでした。
そうこうしているうちに、1つの答えにたどり着きました。
「住んでいる場所が悪いのではないか」



妊娠してからは、彼女が彼のアパートに転がり込み、同棲が始まりました。
アパートは築25年のおんぼろで、1DKという間取りは
お世辞にも「住みやすい物件」ではありませんでした。
彼女がそのことを、遠まわしに不平不満を言っているのだろうと考えたのです。



「元の彼女に戻ってくれれば」と思い、彼は少し無理をして、近くにマンションを購入し
4,000万円、35年の住宅ローンを組みました。
これから家族が増え、子供を育てていくのだから、やや大きめのマンションを選んだのです。



しかし、彼の努力とは裏腹に、改善の兆候は見られませんでした。
新しいマンションに引っ越しても、彼女が平常心を取り戻すことはありませんでした。



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彼女が豹変した本当の理由は?



「こっちに越してから、彼女の精神状態はむしろ悪くなり、余計にキツい言葉を浴びせられました。
そして、ストレスからなのか、彼女は手足に蕁麻疹を発症してしまいました。
日に日にツワリが酷くなり、1人で家に置いておくのも不安になったため、まだ妊娠7カ月ですが
青森の実家に帰ってもらいました。」



彼はもう気が狂いそうでした。
彼女がおかしくなった原因が何なのか、彼の頭のなかをグルグル回っていましたが
いっこうに答えが見つからず、イライラして動揺する日々。
そんななか、ネット上に「ある書き込み」を見つけました。
それは『妊娠中は気持ちが不安定になり、ヒステリックになる傾向がある』という内容です。



彼はなんだか急に救われたような気がして
一連のトラブルの原因は「妊娠しているから」だと結論付けました。
今は特別な期間で、出産が終われば、きっと元の彼女に戻ってくれると決め付けました。
そうでないと、これからどうなるのか、不安で不安で仕方がなかったからです。



彼は彼女の気持ちが安定するのなら、と思い、実家に戻るよう、勧めました。
慣れ親しんだ実家で、両親と過ごせば、心が落ち着くだとうと考えたからです。
しかし、彼が「良かれ」と思い、講じた対応は次々と裏目に出ます。



「いっこうに彼女から連絡がなく、私は心配になったため、実家に何度も電話をしました。
しかし、電話に出るのは彼女の母親ばかりで、いっこうに彼女につないでもらえません。



そのうち、彼女の父親が出てきて、『これ以上、付きまとうなら警察呼びますよ』と一喝され
揚句の果てには『娘はおまえに強姦されんだ』と言い出す始末。それ以来、怖くて電話できなくなりました。



訳がわかりません。だって入籍する前に、確か海の日だったと思いますが
実家にはちゃんと挨拶に行ってるんですよ。そのときは歓迎してくれたのに・・・」



これは彼にとって悪夢のような現実ですが、まだ序章に過ぎません。
悪夢は次々に襲ってきます。まず彼女の出産です。



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出産直後に、突然の縁切り宣言



彼女の妊娠が分かったときから、彼は出産に立ち会うのを楽しみにしていました。
35歳になってからの第一子だから当然です。出産予定日は、もうすぐ、そこまで迫っていました。



しかし、いっこうに状況に進展がないまま、時間だけが過ぎていきます。
そんななか、彼女から突然、1通のメールが彼の携帯に届きました。
実に3ヵ月振りの連絡です。



彼はそのメールにわずかな望みを託し、緊張しながら、携帯電話の「受信箱」のボタンを押しました。
『出産も近いから、病院に来て欲しい』
そう書かれたメールであることを信じて・・・
しかし、その期待は見事に裏切られました。



「別れて欲しい。それから分娩のお金とこれからの生活費を払って」



出産予定日より前に、帝王切開で赤ん坊は産まれていたのです。
彼は念願だった、わが子の誕生の瞬間に立ち会うことはできませんでした。
しかし、彼には落ち込んでいる余裕すらありません。
もっと大きな問題が彼の前に立ちふさがっており、すでに退路も塞がれていました。



彼にはもっと知りたいことが、たくさんありました。
赤ん坊の性別は男の子、女の子?体重は何グラム?どちらに似ているの?
しかし、彼の望みとは裏腹に彼女から聞かれたのは
いつ離婚してくれるの?生活費はいくら面倒をみてくれるの?子供には会わない約束で!



彼女の帰りをずっと待っていた彼にとっては、急転直下の展開でした。
彼女から「縁切り」を宣告されたのです。
あのマンションには帰らないのはもちろんのこと、これから二度と顔を見たくないというのです。
縁切りとは彼女だけでなく、わが子にも今後、会えないことを意味します。



ここまで話を聞いて、私はようやく彼の言う「種馬」の意味が分かってきました。
種馬とは、彼女が彼に求めていたのは精子だけで、夫としての役割、父親としての役割を
期待しないということです。
「精子の提供者」としか見られていないことに対する憤りを表した言葉でした。



彼女は以前から、「別れの場面」を考え、用意周到に準備をしてきたかもしれません。
しかし、彼にとっては全く予期しないことで、不意打ちをされた形です。
彼の希望は「やり直したい」、彼女の希望は「別れたい」
お互いの希望は水と油であり、混じり合うことはありませんでした。



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全財産が一瞬で消える?!



彼が私に電話をし、相談してきたのは、ちょうど、このときでした。
私に助けを求めてきたときには、彼はすでにやり直すことをあきらめていました。
今まで何度も復縁を申し入れましたが、彼女の反応は
「話すことなんてない」「早く別れて」の一点張りだったからです。
彼は渋々、離婚を受け入れ、今現在、お金のこと(出産費用や養育費)を話し合っている段階でした。



しかし、せっかく私の力を頼ってもらっても、すでにタイムオーバーでした。
私は今までに、彼と同じような相談を、もううんざりするほど、受けてきました。
その数は6年間で7,000件以上。
どのようなケースなら解決でき、解決できないのか経験則で察知できます。
頭の片隅では分かっていました。「ここまで悪化していると、どうにもならない」
それでも微かな可能性に期待して、できる限りの力は尽くしたつもりです。



まず私の頭にハッとよぎったのは、彼の財産です。
実家に戻り、音信不通になるケースでは、財産を持ち逃げされるケースが非常に多い。
「家計はどちらが管理していますか?通帳や証券は?」
私は慌てて尋ねました。



彼によると家計は彼が管理していましたが、メインバンクの通帳は妻が持っているということ。
私は電話口で急ぎ、アドバイスをしました。
インターネットバンキングで、口座の中身を確認するようにと。
彼はその場で携帯を使って、銀行のページにログインしましたが
そこには目を覆いたくなるような画面が映し出されていました。



「差し引き残高 52円」



すでに手遅れでした。
そこには彼が就職してから現在まで、十数年かけて貯めた600万円が入金されていました。
彼女が実家に帰った日付で、600万円が引き出されていたのです。



その事実は到底、今の彼に受け入れられるものではありませんでした。
彼は失ったものの大きさを認識すると愕然とし、ひどく落ち込みました。
そして彼女とやり合って、問題を解決しようという気力を失ってしまいました。
妻、子供だけでなく、全財産も一瞬にして失ってしまったわけですから、無理もありません。

彼は「もう、いいです」と泣きそうな声で言い残すと
「ガシャ」と投げやりに電話を切りました。それは私の耳をつんざくような音でした。
その音の大きさに、彼の悔しさがにじみ出ていました。


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見知らぬ赤ん坊のために、月10万円を捻出する日々



それから1ヵ月。彼から突然、私宛にメールが届きました。先日の電話の報告です。
結局、妻に言われるがまま、毎月10万円の養育費を20年間支払う約束をしました。
600万円の貯金を返してもらうこともなく、
4,000万円の住宅ローンの一部を肩代わりしてくれることもなく、
そして1度も謝られることもなく。
こうして彼の、わずか1年間の結婚生活は終わりました。



結婚前と結婚後、彼の人生が一変しました。
彼が結婚相談所に登録してから、現在までに失ったものの一覧です。



・総額2,400万円の分割支払(子供の養育費として月10万円×20年間)
・4,000万円の借金(住宅ローン)
・600万円の貯金
・50万円の分娩費用
・職場、親戚への社会的信用(結婚生活を1年も続けられない人間だというレッテル)
・「わが子に会えない」というやり切れない気持ち



最後の最後に、彼は私にこう言い残しました。
「僕はごく普通の結婚がしたかっただけなのに・・・何でこんなことに。
僕は今日、35年で築いてきたものをすべて失いました。悔しいです」



ここまで彼の悲劇的な結末を見てきましたが
あなたは自分に置き換えて、どのように考えるでしょうか?
「この人は例外中の例外。自分なら、こんなヘマをしない」
そう思われるかもしれません。この惨劇をきっと色眼鏡で見るでしょう。



しかし、本当に他人事で済まされるのでしょうか?
実はあなたも決して例外ではなく、誰もが一歩間違えると、彼の二の舞になります。
何もあなたに脅かそうというわけではなく、統計上、明らかなことです。



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貯金の6割、収入の2割を失うという現実



まずあなたは貯金の6割を失います。
結婚相手を間違えて、人間関係が早々に破綻した場合です。
20代の平均貯蓄は355万円(平成20年、総務省の家計調査)ですが、
離婚時の慰謝料は平均199万円(婚姻期間1〜5年。平成11年、司法統計年報)ですから
別れ際には貯金の60%以上を相手方に持って行かれます。
あくまで平均値ですので、彼のように全財産を失うケースも含まれています。



婚活「後」の失敗で失うお金は、これだけではありません。
あなたは20年間にわたり、稼ぎの13.5%を失います。
20代の平均年収は355万円(平成21年、総務省の家計調査)ですが
平均の養育費は年48万円(子1人の場合。平成11年、司法統計年報)ですから
離婚時から20年間にわたり、あなたの収入は2割近く、減少します。
それは短期的なことではなく、彼の場合、定年間際の55歳まで、給与明細は常に「2割引き」です。



彼は35歳という年で結婚相手を見つけ、入籍したところまでは、婚活の勝ち組でした。
婚活をしても結婚できる人もいれば、結婚できない人もいるからです。



しかし、彼は突然、「負け組」の仲間入りをしました。
結婚相手の精神状態が不安定になり、人間関係がおかしくなり、別れることになったからです。
このように婚活の失敗によって負け組に転落する人が増えれば増えるほど、若者の貧困を助長し
経済格差を拡大させる結果になります。
さらに最低20年間は負け組から抜けることができませんので、格差の底辺にべったり固定されます。



結婚「後」に失敗した彼にはこれから、どのような人生が待ち構えているでしょうか?
私は彼が5年後、10年後、どのような不利益を受け、トラブルに巻き込まれるのか、知っています。
彼と同じようなパターンで別れた人の「その後」を多数、見てきているからです。



・経済的な理由で再婚したくても出来ない(元結婚相手への支払が多く、家庭を支えられない)
または再婚相手が限られる(ダブルインカムでないと家庭を維持できない)



・不景気による収入減で、別れ際に決めた養育費を支払えず、借金を繰り返し、
自転車操業に陥り、自己破産する。



・不動産が値下がりし、自宅を売却しても、多額の売却損が出るから、
家族3人(結婚相手と子供)で住むはずだった大きな物件のマンションに自分1人が住み、
多額の住宅ローン、固定資産税、管理費、修繕積立金を負担する。




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負け組への転落は本当に偶然?



婚活は人生のたった1ページの出来事ですが、1回限りの失敗で、今後、一生涯を棒に振ってしまう。
婚活による「負の遺産」にずっと、苦しめられ、悩まされ、暗く塞ぎ込む。
結婚したくても、できない人のことを「結婚難民」といいますが
彼らは『結婚「後」難民』です。



もし、被害者が1人や2人なら、それは「難民」ではありません。
ごくごく珍しいケースという扱いで済まされます。
しかし、『結婚「後」難民』の数は少数ではありません。



私は6年間で504人の『結婚「後」難民』を見てきました。
これはすべて、結婚0年〜3年でピリオドを打った人たちです。
(0年というのは籍を入れる前にトラブルが起き、結婚を取りやめたケース)



その内訳は男性185人(結婚前42人、結婚後143人)
女性319人(結婚前118人、結婚後201人)
この数字は被害者のごく一部です。



なぜなら20〜35歳の未婚者は男性が約756万人、女性が約607万人もいるからです。(総務省調べ)
未婚者1,350万人は婚活予備軍であり、同時に『結婚「後」難民』の予備軍でもあります。
この数字を見ると、彼の悲劇が「特別、稀なケース」ではないことが分かります。



そんな彼、彼女たちに向けて執筆したのが、この本です。
この本では私がこの6年間で相談を受けた504人の相談内容をとことん調べ上げ、
ようやく発見した「すぐに人間関係をダメにする人」の共通点をあなたに教えます。



机上の空論ではなく、実際にあった相談事例を徹底して分析し、
婚活の現場で遭遇する確率の高い順に5つのパターン
(浮気、お金、暴力、精神不安定、モラルハラメント)を抽出したものです。
あなたは「結婚すべき相手かどうか」取捨選択の基準を楽々自分のものにできます。



例えば、異性にどのような特徴があると、結婚後、浮気の常習犯になるのか、
精神状態が不安定なり、毎日喧嘩になるのか。
それをチェックリストの形式で、ほんの一瞬で判別することができます。
彼の場合も、本書で紹介する「責任転嫁」「ヒステリック」「妄想癖」といった特徴が
彼女に表れていたのです。
それは結婚後ではなく、交際期間中にです。
それにいち早く、気付いていれば、最悪の悲劇は防ぐことができました。




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一瞬の気に迷いで、人生をまるまる棒に振らないために



「結婚相手を間違えた時点で、人生が終わってしまう」これが現実です。
彼と同じ失敗を繰り返さないためには、相手を選ぶ時点で、
「本当に結婚して良い相手なのか」判断する力が必要です。
トラブルを未然に防がなければ意味がありません。
大事なのは事後策ではなく、事前策です。



婚活の当事者に圧倒的に不足しているものがあります。それは情報です。
情報の不足はそのまま、想像力の欠如につながります。
情報がないために、想像力を働かせることができず
「この人と結婚したら1年、2年後どうなるのか」予想できないのです。
それなら情報を与えてあげればいい。



イメージしてください。今までの婚活はお化け屋敷も同然でした。
真っ暗闇のなか、おっかなびっくり手探りで進めるため、「人を」見分ける術がなく、
問題人物を見抜けませんでした。



しかし本書には館内にピカっと光を差し、明るく照らす効果があります。
お化け屋敷に照明がついていれば、もう怖いものはなく、目の前にいるのが結婚すべき相手なのか、
お化けなのか、一目瞭然です。



本書なしに婚活を始めるのは、あまりにも危険です。
恋愛経験の少ない男女が盲目的に結婚相手を探すため、一瞬の気に迷いから、誤った相手を選び、
人生を棒に振ることに。
ブームだからと甘い気持ちで婚活を始める前に、必ず前もって目を通してもらいたい。

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